TRICK OR TREAT?




「あっと、三日♪あっと三日♪」

血盟城の廊下を黒い先の折れ曲がったとんがり帽子を持ったグレタが、ちょっとした機嫌良くスキップをしている。

「おやグレタ、どうしたのですか?」

そこに偶々通りかかった本来は麗しいはずの、今では汁男として知られている王佐ギュンターがグレタの持っている今までに見たことのない帽子を不思議そうに眺めている。

「はろうぃーんの準備してるの〜。これはね、グレタの魔女の帽子なの」

グレタの解答にますます訳がわからなくなったギュンターはさらに首を傾げる。

「はろうぃーん?なんですか、それは。それに、グレタは罠女にはなれても、魔女にはなれないのですよ。そのような被り物も見たことがありませんし。」

「明々後日だけは、仮装してグレタは魔女になれるんだって。ユーリが言ってたよ。この帽子もユーリが教えてくれたの」

それを聞いた瞬間、ギュンターの脳内に彼にしか理解することの出来ない様々な思想が展開され、辿りついた結論は

「陛下はまた誰かに、あらぬ知識を吹き込まれたのですね!急いでお可哀想な陛下に正しい知識をお教えしなければ!!お勉強ですよ、べ〜い〜か〜ぁ!!!!」

と、グレタを置き去りしに汁を撒き散らしながら一目散に走り去っていった。

「・・・変なギュンター。いつもだけど」

一人取り残されたグレタのつぶやきは尤もなものだった。



一方、ユーリの自室では――

「一応、こんな感じになりました」

「上出来、上出来!あとは、ワンピースかぁ。間に合いそう?」

「えぇ、大丈夫ですよ」

寝台の上には黒の小さいマントが、そしてコンラッドの手には何枚かの紙が。
その時、扉が盛大に開き汁男もといギュンターがやはり、汁を撒き散らしながら飛び入ってくる。

「べいが、今こぞわだぐぢめとただじい知識を・・・」

しかも、汁のせいで何を言っているか聞き取り不可能。
ユーリが身の危険を感じてとっさにコンラッドの後ろに隠れたとしても許して欲しい。

「ざぁ・・・おや、このマントは陛下には小さすぎますね。陛下の寸法を間違えるとはおこがましい。よく叱っておかねば」

コンラッドの後ろに隠れたユーリへ手を伸ばしたギュンターだったが、その腕を掴む前に寝台の上に広げられたマントの方に気がいったらしい。
ユーリから気を逸らした途端、垂れ流しにしていた汁が止まったどころか、滑舌まで戻るところは最早なんというか・・・

「いやいやいや、流石にこんだけ寸法間違えていたら出来上がった時点で気付いてここまで持ってこないから。これはグレタのだから、小さくて良いんだよ」

ユーリは汁が止まったのを確認して漸くコンラッドの後ろから出てくる。
が、グレタという単語を耳にして用件を思い出したギュンターに肩をつかまれ、間近から覗き込まれて、冷や汗をたらす。
なぜなら、ギュンターの涙腺が再び緩み始めていたからである。

5・4・・・

汁まみれになる覚悟をしたユーリは心の中でカウントダウンを始める。

2・1

来るぞ!と思い、ユーリは目を閉じる。しかし・・・

「コンラート!!貴方だったのですね、陛下にあられもないこと吹き込んだのは。」

またもやギュンターの気は他のものに逸れたようで間一髪で難を逃れる。
そして、ギュンターが気を取られたのは、コンラッドが手に持っていた数枚の紙――ユーリと共に描いたグレタの仮装の衣装の図面――だった。

「こんな帽子が魔女の帽子だなんて。それに、幼い子供になれないものになれるなどと」

「ちょ、ちょっと待った!!」

ギュンターが勘違いして一方的にコンラッドに詰め寄るのを見て焦ったユーリはコンラッドに彼を庇うかのように抱きつく。
ギュンターを直接止めなかったのは彼に自ら触れたことによって汁が暴発するのを回避しようとする本能だったのだが、それがまた新たな厄介事を呼ぶことをユーリは知らない。

「陛下、なぜコンラッドを庇うのです!?」

「だから、これは地球のものなんだってば!!」

「は?チキュウ??」

どうにか、話を本筋に持っていけそうな展開になったとき、開きっぱなしの扉から猛スピードで走ってくる足音が聞こえてきた。

「ユーリィ!!!はろうぃーんとは何だ!!もしかして男では・・・ってお前らなぜ抱き合っているんだ!この尻軽!!浮気者!!」

息を切らして部屋にやってきたのはヴォルフラム。しかも、どうやら彼も色々と勘違いをしている模様。

「おおおおお落ち着け、ヴぉヴォルフ。そっれは、地球のイベント!催し物」
ガクガクと揺さぶられながらも、下を噛まないよう懸命に言葉を紡ぐ。
幸いにも、ヴォルフラムにその言葉は届いたらしく、揺さぶっていた手が離される。

「なんだ、そうならそうと早く言え」

「自分が言わせる暇を与えなかったくせに・・・」

「で、はろうぃーんとやらは一体なんなんだ」

ユーリがポツリとつぶやいた言葉はふんぞり返っているヴォルフラムには届かなかったようだ。
ユーリはひとつ咳払いをするとハロウィン談義を始めた。

「ハロウィンってのは・・・」



「とまあ、こんな感じの催し物だ」

30分後ハロウィン談義の締めを括ったのはコンラッド、説明をしていたはずのユーリは横の寝台に突っ伏して潰れている。
と、いうのも「ドラキュラ伯爵」だの「ミイラ男」だのの固有名詞を出すたびに「男か〜!!」とヴォルフラムが追いかけ、それから逃げながら誤解を解くを繰り返していたためである。
説明に30分かかった原因もここにある。
そして、追っかけまわしていたヴォルフも疲れきってユーリの隣で撃沈している。

「そうなのですね。では、早速皆の衣装も手配せねば!!」

「いや、もう時間もないし、もともと子供のためのイベントだからグレタのだけでいいよ」

今からでも、準備できないわけでもないのだろうが、仕立て屋のことを考えるとあまり負担はかけられない。そもそも仮装をして嬉しい歳でもない。

「あ、ユーリの分は既に手配してありますよ」

そこはコンラッド、抜け目はない。

「はぁ?」

「いえ、せっかくですから父子共に楽しんだらいいんじゃないかとと思ったんで」

そこにあるのはいつもと変わらない笑顔。なのに、嘘くささを感じてしまうのは何故だろうか?

「ユーリがするなら、ぼくもするぞ!!」

ベットに突っ伏していた身体を跳ね起こしてヴォルフラムが参加を主張する。

「では、ヴォルフラムのものを追加ということでよろしいでしょうか?」

「いや、ちょっと待った!おれにやれっていうんならコンラッドもしようぜ」

「え?」

コンラッドが少し困った顔をする。ユーリはしてやったりとほくそ笑む。
勝手に話を進めていたコンラッドへのせめてもの意趣返しだ。

「な〜にがいっかな〜?」

先程、仕立て屋を気遣った心はどこへ行ったのか、喜々としてコンラッドの衣装を考え始めるユーリであった。



そして、当日

「まさか、自分が黒を身につけるとは」

「仮装なんだから、今日は無礼講だよ」

コンラッドの衣装はドラキュラ。色々と迷ったのだが、これが一番似合いそうだったのだ。
ユーリの予想は見事に的中し、黒いマントを翻して歩くコンラッドは見惚れてしまうほどかっこよかったのだ。

「さ、ユーリも着替えてください」

コンラッドが着替えを促すが、それを言われた途端ユーリは俯き、押し黙ってしまった。

「?ユーリ?」

「・・・あんたさぁ、一体なんであんなの用意するんだよ」

ユーリのコンラッドを見上げる目は睨んでいて、その声も普段より幾分か低かった。
それもそのはず、ユーリに用意された衣装は毛皮で作られた付け耳、手袋、筒、尻尾つきの短パン、ニーハイブーツだ。
これから予想するに、狼男がコンセプトなのだろう。
しかし、いかんせん露出が多すぎる。何故、短パン。いや、それはまだ良いとしよう。問題はトップスだ。トプッスが筒オンリー、しかもチューブトップなんて可愛いく思えてくるくらいのベアトップ。

「え、向こうの子供でこんな格好してませんか?」

「どこにこんな怪しいお店のおねーちゃんが着てそうなの着る子供がいるんだよ。いや、百歩譲っていたとしても、おれが着るのはおかしいだろう」

と、いうかわざと露出を激しくしたに違いない。絶対にそうだ。おれに相談しなかったのがその証拠だ!犯人はお前だ!!(←違う)

「まぁ、もうこれしかありませんし、グレタも待ってますから早く着替えて」

と、半ば強制的に着替えさせられて部屋を追い出される。

外に出たことで開き直ったユーリは外で待っていたグレタと共に城内を回る。
すると、てっきりグレタ分のお菓子しかないと思っていたユーリは大勢から自分の分のお菓子も用意されていて驚いた。
なかでも、グウェンダル手作りのケーキとコンラッド手製のクッキーは絶品だった。

「いっぱい貰えてよかったな、グレタ〜」

「ユーリもいっぱいもらえてよかったね!」

「お父さんはビックリだったよ」

久々の親子らしい会話も出来て、ホクホクだ。
その余韻が残って、軽い足取りで自室に戻ると、そこにはお茶を淹れて待っていたコンラッドが。

「お帰りなさい。眞魔国初のハロウィンはどうでした?」

コンラッドがひいてくれた椅子に腰掛け、淹れてもらったお茶を飲みながら上機嫌でユーリは応える。

「グレタも喜んでくれたし、収穫物いっぱいで大満足」

「それは良かった。ではユーリ・・・・Trick or treat?」

コンラッドが流暢な英語で問う。
意外なところからの攻撃にユーリは思わず咽そうになる。

「コンラッド、100をとうに超えてるいい大人が・・・まぁいいや。確かあっちに飴が」

飴を取りにいこうと立ち上がったところで、コンラッドに抱きとめられる。

「いえ、俺のお菓子は・・・」

ちゅっと目元にキスを落とされる。
普通ならば、ここで甘い雰囲気になっていくのだろうが、今回ばかりはそうもいかない。
なぜなら、今日の服装が服装だからだ。

やばい、このままじゃ、絶対変なことされる!!

頭の中では警鐘が鳴り響き、背中には冷や汗が伝う。

「ね、ユーリ」

「い〜や〜だ〜!!!」









ようやく書き上げました。眠い。どうしよう今日は1限からなのに・・・
ハロウィン物どうだったでしょうか?

フリー小説ですので、ご自由にお持ち帰りください。
背景(探す時間がなくて使いまわし)、お持ち帰りしていただけます。が、お持ち帰りページに↓の素材サイト様を必ずリンクしてください
Photo:Art-Flash


back