明日、天気になぁれ




はぁ…


本日53回目の溜息。
ユーリはただ黙々と手を動かす。

今現在、脱走好きな第二十七代魔王陛下は珍しく執務を黙々とこなしていた。
ユーリから見て右側の壁沿いではそれがなかった日はあるだろうかと思う程眉間に深く皺を刻んだグウェンダルが、左斜め前には鼻血止めのティッシュを鼻に詰めユーリの一挙一動にいちいち賛美の言葉を吐いているギュンターが。そして、後方にはいつもの如く壁にもたれて腕を組んでいながらもさりげに手を剣の柄に添えているコンラードが。
何気ない日常の風景。けれど、執務室の中は昼間だというのに薄暗く、明かりが燈されていた。

「もうしばしの辛抱ですよ」

最近よく耳にする言葉に後ろを振り返ればその言葉を発した今は護衛のコンラードは目を閉じたままやはり壁に凭れたままだった。

「………それ、一週間前から毎日聞いてる」

書類に目を戻せばさっきからいろんな汁を出しながらさめざめとユーリの溜息について延々と語っているギュンターが目に入ったが取り合わずに放っておく。ユーリだけでなく、グウェンダルやコンラートもだ。
どうせ何か言ったところで酷くなる可能性はあるにせよ、止まることはないので誰も取り合わないのだ。
自分と書類に汁の被害がこなければいい、そんな諦めに似た感情もあるのだが、皆、延々と続く長雨で気が滅入っているのだ。

現在、眞魔国は梅雨真っ最中。
来る日も来る日も雨。
しかも、ここ四日は豪雨が続いていて散歩にすら行けない。

「あ、まただ」

「また、ですか」

壁から離れたコンラードが後からヒョイと覗く。
書き上げた書類をめくり、次の書類に目を通すとそこにあった内容は大雨による土砂崩れが起きたことの報告と、復旧作業の人員補助の願だった。

「困りましたね、これ以上人手を城から減らすわけには行きませんし。」

先程までの惨状はどこへやら、いつの間にか相好を王佐に戻したギュンターが眉をひそめて書面をみつめる。いつもこうだったら良いのに・・・。

今年の梅雨は記録的なものらしく、ここ数日の大雨で眞魔国各地で土砂崩れや河川の氾濫などが起き、毎日のように復旧作業員の増員や派遣の要請がきている。
ユーリの強い願いにより出来るだけ多くの場所に人員を派遣するようにしているが、こうも被害が多くては城の兵も出尽くし、これ以上の派遣は城の警備が蔑ろになるため不可能というのが現状だった。
これには采配を取り仕切っているグウェンダルも頭を抱えているようだ。

「侍女たちも洗濯物が乾かないと嘆いているし、農民からはこれ以上の雨は作物が根ぐされしてしまうという声もあるみたいだしね」

コンラートはコンラートでその人当たりの良さから会う人会う人に相談を持ちかけられているようだ。

「いくら恵みの雨と言っても、過度に降られるとこまるよなぁ。雨を降らせる魔笛があるんなら雨を止ませる魔琴でもありゃいいのに・・・」

と、本日54回目の溜息。
こうして、近年で珍しくも静かな一日が過ぎていくのであった。



「ユーリ、なにしてるんだ?」

コンラートが風呂から上がって寝室に戻ると、ベットの上でせっせと何かの作業に励んでいるユーリの姿が見られ、その周りにはハンカチサイズの白い四角い布が数枚と、くしゃくしゃに丸められた布が散乱していた。

「なにって、照る照る坊主作り」

そういうユーリの手には丸めた布を四角い布で覆い、口をヒモで縛ったものが。

「テルテルボウズ?」

「そ、照る照る坊主!日本ではな、雨が降ってほしくない時や雨が止んで欲しいときにこれを作って窓に吊るすんだ。一種の願掛けかな?」

丸い部分が頭になるのだろう、ユーリはそれに顔らしきものを描き込んでいる。

「吊るすってもしかして首の部分を?」

「そうだよ。まれに頭の天辺に紐を通す人もいるけどだいたいはそのまま縛った紐を使って吊るすと思う。ちなみにおれもそのまま派」

いくらデフォルメされているとはいえ、人型に模した物を首から吊るすとは

「それはまたなんともグロテスクな」

「ぶっ、そういえばそうだな。それが当たり前だから気付かなかったけど、そう言われてみりゃそうだ。あはははは」

「このテルテルボウズ眉のとこに余計な線が入ってるけどいいの?」

ユーリの作った照る照る坊主には笑って描いたためにズレたのだろうか、眉の部分に一本余計な線が入っていた。

「んあ、別に全然大丈夫だよ。それよりコンラッドも作ってみる?」

いったい何がそんなにツボだったのだろうか、ユーリはまだ身体を震わせつつも布とヒモを差し出してくる。そんなユーリの作る様を一から見て、見よう見真似で作ってみる。
作り方も作りも簡単だったため、あっという間に一体が出来上がる。

「ねぇ、コンラッド。ちょっと思いついたんだけどさ・・」

最後の一体をじっと見つめたまま彼はとても彼らしい提案をした。



「いいかぁ、簡単だから皆よく聞けよー。」

翌日、謁見室に人を集めた彼は玉座に立って工作講座を開いていた。
昨晩、彼が言い出したことは「城に残ってる皆に照る照る坊主の作り方教えてさ、城中に飾ったら面白そうじゃねぇ?」と、突拍子もないことだった。
しかも、それを翌日には実行に移してしまう思い立ったら吉日なところがまた彼らしいというか。

「はい、これだけ。簡単だろ?他の人たちにも伝えてな、じゃぁ解散!!」

解散を告げられたあと、謁見室に集まっていたものたちは自分が作った照る照る坊主を握り締め、それの作り方を同僚や部下に教えるためいそいそと各自の持ち場に帰っていった。
ユーリは本当に城にいるもの全員が作った照る照る坊主を飾るつもりらしかったが、いかんせん城に勤めるものの人数は半端ではない。ユーリが一人一人に伝えるわけにもいかないし、かといって全員が謁見室に入るわけでもない。そのため、各部署の代表に集まってもらい彼らから作り方を伝達させる方法を取ったのだ。
また、その集まった面々のなんと楽しそうなことか。
もともと気のいい者達の集まりではあったのだが、この様子をみると余程今回の長雨に退屈していたのだろう。その証拠にさっき解散したばかりだというのに吹き抜けの廊下、窓という窓にはロープが張り巡らされ、既に何個か照る照る坊主が吊るされていた。
そして、一時間経ったころにはロープにはぎっしりと大小さまざまな照る照る坊主が飾られていた。

「うっわ、すげーなぁ。皆本当にやってくれたんだ。うれしいな」

ユーリは喜々として照る照る坊主を一個一個見ていく。

「でも、照る照る坊主が白じゃないなんて変な感じ。日本では白が主流だったからさ」

吊るされた照る手る坊主の色は赤や黄色、チェックから花柄と様々でそれらが並ぶと賑やかで、薄暗い城が明るくなったようだった。

「でも、こっちのが皆の個性が出てていいかもな!あ〜アレはギュンターが作ったやつだな。これはめっちゃ可愛く作ってあるけど誰が作ったんだ??」

「あぁ、それはグウェンですよ」

「えぇ!!」

ユーリが苦笑しながら指差した、白地に赤い血痕が付いているのはギュンターが作ったのだろうとすぐにわかった。この城で照る照る坊主を作りながら鼻血を噴くのは彼ぐらいだ。どうせ、また妄想が暴走したのだろう。
そして、その横にあるのは可愛らしい猫耳と尻尾がつけられたもの。さっき人目を忍んで飾っているのを偶々通りかかったコンラートが見てしまったのだ。
口ではくだらないと言いつつもユーリを可愛がっているのが見て取れた。

「明日、晴れるといいな」

こんな願掛けをしても、効果がないことは知っているけれども。



翌朝、窓辺に吊るされた照る照る坊主からは雫が滴っていた。

「陛下、朝ですよ。起きてください。」

「へ〜か言うな・・・あと5分」

「すいません、つい癖で。ユーリ、起きて。今日は絶好のロードワーク日和だよ」

「う〜ってえぇ!!ホントに晴れたの!?」

一気に眠気が覚めたユーリは飛び起きて素足のまま窓辺に駆け寄る。
そして、青空を見つめ久々に太陽の光を浴びて、それに負けない笑顔を見せた。


「あ、ユーリ!」

ジャージに着替えると、我慢の出来ない子供のように部屋を飛び出て行く。
いつものようにユーリが脱いだ寝巻きを片付けようとしていたので置いていかれそうになる。

「コンラッド、はやくはやく!」

走りながらも振り返って差し出されたユーリの手をとり、数週間ぶりの朝の時間を満喫しに出かけた。
城では雨の名残を残した照る照る坊主が青空を背に笑っていた。




E*mentの如月 綾様に半ば無理矢理押し付ける相互リンク御礼小説です。
コンユで、とのリクエストだったのですが、あれ?
とりあえず、今梅雨なので(まだ梅雨明けしてないよね?;;)それネタいってみました。
お持ち帰りは綾様のみOKです。


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