それぞれの雨の日 ヨザケンVer.





眞魔国の雨の日は好きだ。
日本では制服のズボンは水浸しになるわ、車に泥水をかけられるわで大嫌いだけど、この国は違う。
雨の日は建物内に篭っていればいいし、それに文句を言う人もいない。庭での衛兵の訓練も中止になるし、雨音が静かな音楽を奏でて巫女さんたちのちょっとした喧騒も消してくれるから一人静かに読書に没頭することが出来る。

それになにより、渋谷が会いに来てくれるから。


地球では結構な頻度でお互いに連絡を取り合っているし会ってもいるけど、こちらではウェラー卿に夢中なのか――いや、それだけじゃないな、ウェラー卿が僕のほうに渋谷の気が向かないようなにかしているに違いない。なにせ、気付かぬは渋谷ばかり、腹黒街道まっしぐらな男だし。――とにかく一大事でも起きない限り連絡ひとつ寄越しやしない。
まぁ、渋谷以外もそうなんだけどね・・・
彼らが必要なのは、僕の「僕以前の過去の記憶」で厳密に言えば「大賢者の箱と創主に関する記憶」であって今、ここに現存する僕じゃないから。つまり、今の僕は眞魔国での役職―仕事はないようなものだ。だから、仕方のないことかもしれないけど、いつも会いに行くのは僕のほう。
でも、雨の日だけは違う。
雨の日は日課の運動が出来なくて退屈した渋谷が遊びに来てくれる。

「猊下、失礼します・・・」

ほら、今日も来たみたいだ。



雨の日は嫌いだ。

「あ、この荷物お願いします」

「あ〜、あっちの部屋でいいんすかね?」

猊下の護衛として、眞王廟にいるようなってから、オレの仕事はもっぱら眞王廟のお手伝いだ。

「ヨザックさ〜ん、それ終わったらこっちの雨漏りお願いしま〜す」

「あ、こっちも〜」

「あいよ〜・・・」

雨の日の追加任務、眞王廟の雨漏り箇所の修理。
「あそこ、雨漏りしてるんで後日直してもらえますか?」なんて可愛いもんじゃない。「雨漏りしてるから今直してきてください(既にお願いじゃない)」だ。
おかげで好まずとも雨にさらされることになり、こっちは水も滴るいい男を通り越して濡れ濡れ鼠だ。
しかも直せども次から次へと毎回新しい箇所がどんどん増えていくから「この間直したから今回は雨漏りしない」なんて事はない。雨の日はいつもに増して休む暇がない。
これからもわかるように眞王廟は予想外に力仕事が多く男手が必要だというのがわかる。しかし、オレが猊下の護衛でここに来る前は男手はなかったはずだ。そのころはいったいどうしていたと言うのだろうか。
つーか、ここの巫女さん達には労りの精神と言うものがないのか!?
しかも、オレは猊下の護衛なのに、猊下の側にいる時間の方が短いのってありですか〜

誰にも聞こえない声でぶちぶちと文句を言いながらも、手の動きは止めない。止めても時間が延びるだけで仕事は減らない、猊下のところに戻れないということをわかっているからだ。

「これでよしっと」

最後の仕上げをして中に戻る。
辺りを見回して回りに巫女さんたちがいないことを確かめて衣類を脱ぎ、テラスで水を絞る。それを持ってきていたタオルで身体をさっと拭ってから着る。

とりあえず、言われた仕事は終えたし、いい加減猊下のところに戻らねぇとな。

巫女たちに新たに仕事を言いつけられる前に、さっさと猊下の元に逃げることにしようとする。
しかし、その足が向かうのは自室である。
なぜなら、今の自分は雨ざらしで仕事をしていたため水浸しなので着替えなくてはいけないからだ。先の大戦ではもっとひどい惨状になったこともあるので身体に悪いなどとなよっちい事は言わないが、今自分がいるのは恐れ多くも眞王陛下のおわす眞王廟、こんな格好で一日中歩くことは許されないだろう。
少しでも早く猊下の元へ行くため(巫女達に見つかって仕事を言いつけられないためもあるが)足早に自室に戻り、乱雑に服を脱ぎ捨てる。
そうして、着替えの服を出していると、次第に気分が沈んでいった。

雨の日の猊下はいっそう一人になるのを好む。
「一人にしてくれ」とか「話しかけるな」と直接言われたわけではない。しかし、その動作、雰囲気で周りを拒絶するのだ。
その効果は偉大で、幼い顔と可愛らしい声で穏やかそうな印象を持たせるも、その実、ズケズケとものをいい、人を使いまくり、我を通しまくっているウルリーケですら声をかけることが出来ないくらいだ。
それでも最愛の人に構ってもらいたい一心で恐怖を跳ね除け、勇気を振り絞って声をかけたものの、結果はあえなく玉砕。
冷た〜い、そりゃもう凍えそうなくらいの視線でもかえってきたら万々歳だったのに、それすらもなく「聞こえてません」といわんばかりの無視。しかも「食事です」とか必要なことには反応してくれるから、意図的に無視しているのは明らかだ。

いや〜な記憶を思い出してしまって、着替えを用意していた手が止まる。
そして、深い溜息をついていると視界の端にチラリと仕事用の衣装が入った。

・・・・流石にこれなら・・・・



カツカツという足音が眞王廟内に響いている。その足音を立てて小走りをしているのは着替えを済ましたヨザック。
ヨザックが通った後には固まって身動きが出来なくなった巫女たちが・・・。
巫女たちが固まっているのは、ヨザックがメデューサになったからとか言うわけではない。
いや、威力はそれ以上なのかもしれないが。とにかく、走るなと諌めようとしたり、新たに用を言いつけようとした巫女たちはその姿を直視してしまって、あまりの衝撃に驚き呆然としてしまったのだ。

「げ・い・か〜、ただ今戻りました〜♪」

今にも歌いだしそう・・いや、実際に歌っている上機嫌なヨザックが盛大な音を立てつつドアを開ける。
お互いがお互いを認識した瞬間、村田もヨザックも顔を顰める。
村田はヨザックの服装に、ヨザックは部屋にいた客人にだ。

「ヨザックじゃん、久しぶり〜。」

部屋を訪れてのんきにお茶をしているのは、誰もが敬愛する魔王陛下とその護衛。
自分も例に漏れず陛下を慕っているし、可愛いとも思う。だけど、こういう瞬間を目にするとちょっと憎くなる。
雨の日には誰に対しても目もくれない猊下だが、陛下だけには進んで話をする。いわゆる特別扱いなのだ。
猊下の恋人は自分だ。それについては自信を持って言い切れるし猊下自身も認めているだろう。だのに、自分は一番になれない。猊下の一番は魔王陛下お一人で、張り合おうともがいても決してそのポジションを手に入れることは適わない。
これは、未来永劫変わることはないだろう。そのことについては、諦めが付いている。しかし、それと悲しく思わないことは別問題でこうやってそれを思い知らされるたびに落ち込んでしまうのだ。

「で、なんでメイド服なんか着てるの?しかもピンク。」

「グリ江ちゃん、今日のお手伝いは眞王廟のお掃除だったのかい?」

そう、今の格好は前に潜入調査のときに使ったメイド服。
これならば、「今すぐ着替えて来い」くらいの言葉が帰ってくると思ったのだ。
任務の関係で女装をしているときは、けっこう面白おかしく接してくれるのだが、無意味な女装にはあしらいがつめたい。しかし、今日は意外にもノリで返してくるところをみると陛下といることで上機嫌になっていることが窺える。
この事実に、あしらいの冷たいときよりも大きな衝撃を受けた。

もう、今日は何もすまい。

いっそう凹んだヨザックはそう決意した。



「猊下、流石にもう遅いですから洋燈を消しますよ。」

夜も更け、さすがにもういいだろうと、本を読んでいた猊下に眠るように促す。

「ん。あ、その前に」

火を消すため洋燈を持とうとした手を引かれ、唇に軽く触れるだけの口付けを落とされる。

「おやすみ、ヨザック」


――雨の日は、結構好きだ。
   雨の日が好きで、ご機嫌な猊下がほんのちょっとやさしくしてくれるから――








紅様からのリクエストで「庭番×猊下で「雨の日」を題材にした短編」です!
紅様、遅くなって申し訳ありません;;
ヨザックを凹ましたまま終わらせようかと思ったんですが、あまりにもかわいそうだったので最後に救ってやりました(笑)
紅様のみお持ち帰りOKとさせていただきます


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