その名は・・・
「へいかぁ〜、例の物持ってきましてよ」
「わわっ、ツェリ様し〜っ!!」
「あら、ごめんなさい」
ある日、母である上王陛下がユーリに何かを渡していた。
「陛下、それはなんですか?」
「陛下って呼ぶな名付け親。へへ、今はまだ秘密〜」
自由恋愛主義の母は美香蘭のように一癖も二癖もあって使うのがはばかられるようなものを山のように持っている。
今回もそういった類のものだったらいけないと思い、確認を取ろうとするがユーリは教えてくれない。
「大丈夫よ、コンラート。害になるようなものじゃないわ。だから、あなたは陛下が教えてくれるまで待ってなさいな。」
母は嬉しそうにそう囁いて、また自由恋愛旅行とやらに出掛けていってしまった。
とくに害は無くて、母が持っていそうなもの・・・アニシナの作った望みの夢が見れる枕だろうか?
袋のサイズもそのくらいだし、その色がピンクだとすればユーリが隠したがるのもなんとなくわかる。
「本当に話してくれるんですか?」
「もちろん!今はダメだけどね」
嘘ではないだろう。ユーリは嘘をつくのが何より下手だし、約束は守る。
話す気があるのなら今は黙っておこう。
それからのユーリは特に変わったことも無く、いたって普通に過ごしていた。
だから俺もそんなことがあったのをすっかり忘れてしまった。
そうして半年ぐらいがたった頃、ユーリが心なしかそわそわしていた。
「ユーリ、何かいいことあったの?」
そのそわそわは居心地が悪かったり気まずかったりするようなものではなく、むしろ楽しそうで一緒に居る者まで幸せになりそ
うなくらいご機嫌な笑みを浮かべていたのだ。
「いや、あるんだ。今はまだいえないけど、コンラッドにも教えてあげるね?だからあと二〜三日待ってて」
ユーリがそんなに楽しみにするのだからきっと良い事だろう。
「楽しみにしてますね。」
そして、そのとき「今はまだいえないけど」を聞いて半年前の事を思い出した。
「そういえば前に母上から何か頂いてたよね?アレは何だったの?」
それを聞くと、ユーリは一瞬だけすべての動きを止めた。
それはほんの一瞬だったが、俺は見逃さなかった。
「ユーリ、前に教えてくれるって約束したよね?」
「おう、それもそんとき話すよ」
一瞬固まった割には威勢のいい答えだ。
ここまで言い切られてしまっては、これ以上深くは突っ込めない。
ユーリとはちょっと違うそわそわを感じながら待つしかないのだ。
そして約束の日、ユーリが俺が起こす時間よりもはやい時刻に俺の部屋に駆け込んできた。
「ねぇ、コンラッド。ちょっと来て!!」
いつものお約束の挨拶もすっ飛ばし、俺の腕をぐいぐいと引っ張っていく。
いったいどうしたというのだろう?
「何処に行くんです?」
「中庭〜♪」
しかもすこぶるご機嫌。
多少疑問を感じつつもユーリについていくと、そこには・・・
「じゃ〜ん、見て見て!おれが育てたんだ」
凛と立って鮮やかな青い花ビラが特徴の花が花壇に一斉に咲いていた。
それは、母が俺達兄弟を思って作ってくれた花のひとつ。
「前さ、ツェリ様の花壇にあるの見つけて球根を貰ったんだ。」
「では、あのときの物は?」
きっとこの花の球根なのだろう。だが、それにしては母から頂いたものは大きかった。
「うん、この花の球根とちょっとした肥料」
なるほど、それでかさばっていたのか。
「すごいですね。全く気が付かなかった。」
この半年、そんなそぶりはいっこも感じなかったのに。
「水遣りは一日一〜二回で済むし、本格的に土いじんなきゃいけないときはコンラッドが視察に行ってるときを選んでやってたからね」
全くうまい具合に育てたものだ。
でも、俺は花の栽培くらい止めたりはしないし、むしろ言ってくれれば手伝ったのに・・・
「ねぇ、コンラッド。そのさ・・・嬉しい?」
ユーリは俯いてモジモジしている。
それがまたなんとも可愛くてキスしてしまいたい衝動に駆られた。
「えぇ、とても。こんなにいい物を見せていただけるとは思っていませんでした。」
さすがにいきなりキスをしたら驚くだろうから、ユーリの手をとり甲に軽く触れるだけのキスを落とす。
「良かった。コンラッドのために育てたんだ。」
ユーリは課をお真っ赤にさせながらも嬉しそうに、それこそ花のように笑った。
「どういうこと?」
「おれさ、こっちで使えるお金もって無いじゃん?だけど、コンラッドにはいつもお世話になってるから何かお礼がしたかったんだ。」
ユーリはそういうけど、ユーリにはたくさんの資産がある。
けれど、それは国民のお金だからと絶対に手をつけない。
「それが、この花?」
「うん。お金かかってなくて悪いけど」
お金なんて関係ない。
ユーリの気持ちがこもっていれば、俺にはそれだけで最高級品になるのだ。
「ありがとう、ユーリ。本当に嬉しいよ。そうだ、この花がさいてるときは、ここでお茶をしようか」
ここで飲むお茶はきっともっとおいしくなる。
「うん!ねぇ、コンラッドこの花の名前知ってる?そういえばおれこの花の名前知らないんだ」
「それは・・・」