サンタからの贈り物 神様からの贈り物



有利がまだ小さい頃、マンションには同じ年頃の子供は少なかった。同い年では村田健という子だけ。あとはどちらかというと兄の年に近い子ばかりだった。その為、有利の遊び相手は兄か村田だけ。稀に、家に遊びに来た兄の友人達も構ってくれていたがすぐに話題が学校で流行っているもの等、有利にはついていけないものになりいつも母にしがみついていた。
そして、有利が年長に上がる頃には村田も小学校受験の為に塾に通い始め、とうとう有利は一人ぼっちになってしまった。

「ユーリ、何してるの?」

母が繕い物をしている間、クマの縫いぐるみを抱きしめてじっと見ていたユーリにそう声をかけてくれたのは隣の部屋に越して来たコンラッドだった。
コンラッドの家は父子家庭だったので、父親が仕事に出ている昼間や出張の日は有利の家に預けられていた。コンラッドはいつも有利を最優先にし、友達の誘いを断ってまで有利と遊んでくれた。兄もとても自分を可愛がってくれていたが、「将来、都知事になるためには今から人脈を作っておかないと」と言って友人の誘いはほとんど受けていたので自然とコンラッドといる時間の方が多くなった。
それに、兄や村田はインドア派だったが、コンラッドは有利と同じでアウトドア派でいつもキャッチボールに付き合ってくれていたので、有利はあっという間にお兄ちゃんっ子からコンラッドにべったりになっていた。
コンラッドが苦手な兄はそれが気にくわないようだったが、小さい有利にはそんな事どうでも良かった。


「コン兄ちゃん!今日の練習は一点取れたよ!!」

有利は、小学校にあがりリトルリーグに入った。
コンラッドといる時間は前よりぐっと減ったがそれでもコンラッドに一番懐いていた。練習が終われば家にとんで帰り、その日あった事を逐一報告していた。
コンラッドもそれを嫌な顔一つせず優しい笑みを浮かべて聞いてくれた。
大好きな家族と優しいコンラッド。これだけはいつまで経っても変わらないと思っていた。



けれど、コンラッドが17歳、有利が10歳の冬−−

「引っ越す?」

「ええ、高校を卒業したら父の故郷に帰って大学に通いながら家業を継ぐ修行をします」

頭から冷や水をかけられるような衝撃。勝手にコンラッドは日本の大学に進学し、就職すると思っていた。だって、コンラッドは中学から高校まで県内の学校に通っていたし、長期休暇で数日間離婚した母の家に行く以外を日本で過ごしていたから。実はコンラッドが通っていたのはインターナショナルスクールだったのだが、当時の有利にはそれがどれほどの違いか、いつか海外に渡る気があると示している事をわかっていなかった。

「なぁ、修行って日本じゃ駄目なのか?どうしても?」

コンラッドが卒業して引っ越すまでの半年間、しつこいくらいに繰り返した問い掛け。駄々をこねるようにしたこともある。その度、コンラッドは困ったような顔をして「またいつか会えるから」と言った。でも、決していつ会おうと約束してくれないのが有利は不安で悲しくてならなかった。


コンラッドとの別れの日、有利は人目も憚らず泣きわめいていた。そんな有利にコンラッドは向こうに着いたら手紙を書くと約束し、いつものように頭を撫でて去って行った。
彼が日本を発ってから一週間後、有利のもとに一通の手紙が届いた。それは約束していたコンラッドからの手紙だった。手紙には近況を記してあり、新しい家や町並みの写真を同封してくれていた。有利は直ぐさま返事を書き、母に頼んで送ってもらった。
それからも、手紙のやり取りは続き卒業式や新しい制服に身を包んだ入学式の写真を送った。E-mailという手もあったのだが、機械の文字ではなくコンラッドの手書きの文字が見たい一心で手紙を書き続けた。コンラッドも大学の友人と撮った写真を同封して返信してくれた。

そんなやり取りが5年も続いたが、その間とうとう一度も再会することはないまま有利は高校へ進学し、コンラッドは大学を卒業し父親の家業を継いだ。
「コンラッドに会いたいな…」
コンラッドが毎年送ってくれるクリスマスカードを開きながらぽつりと呟く。
コンラッドがこまめに写真を送ってくれるので、コンラッドが今どんな風になっているかは知っている。でも、写真では有利の大好きなダークブラウンの瞳に散る銀の星はわからない。
電話もするけど、時差とか電話代がかかるから稀だし、表情がわからない。
どんなに頻繁に連絡をとっても実際にコンラッドと会わない限り、有利の欲求は募るばかりだ。

「ゆーちゃん、もう寝ないとサンタさん来てくれないわよ」

渋谷家には未だにサンタクロースがくる。脳筋族の有利でも、十六になってまでサンタクロースを信じているはずがないのだが、両親は揃って自分達がサンタクロースだと認めないのだ。
そんなこんなで今年も十時には寝室に押し込められるが、はっきり言ってまだ眠くない。しかし、部屋に電気を付けていても起きているのがばれてしまうので、仕方なしに漫画を一冊とり、スタンドライトを点けたベットへと潜り込む。
漫画を読んでいると次第に眠くなり有利はそのまま眠り込んでしまった。

一度眠り込んだら朝まで目を醒まさない有利だが、俯せ寝という姿勢が眠りを浅くしたのか部屋の中から聞こえる物音に覚醒を促された。

「う…ん?」

むくりと起き上がるとスタンドライトでうっすらと明るい室内の隅に人影がうごめいていた。

「誰だ!!」

思わず叫んでからはっとする。もし、これが強盗ならば殺されてしまうのではないか?狸寝入りをしていれば命だけは助かったかもしれないのに。
有利の声に振り向いた(暫定)強盗犯はゆらりと立ち上がり有利の方へ向かってくる。

「ま、待て!話し合おう!話し合えばきっと…って、えぇえ〜!!!」

光に照らされた強盗犯は赤い上下の揃いと白いボンボンの付いた赤い三角帽、そしてふさふさとした白い髭。
まさしく、サンタクロースだ。
いや、クリスマスだからカムフラージュしているだけかもしれない。サンタクロースは実在しないのだから。
どちらにせよ、怪しい人物にはかわりない。

「ちょっ!タイム、タイム。これ以上近付いたら、大声で叫ぶぞ!」

いくら制止をかけようともサンタの恰好をした怪しい人物は歩みを止めない。

「うモゴッ」

とうとう、ベットまでやってきた怪人に口を塞がれる。絶体絶命!やっぱり殺されるのだろうか?

「静かに。落ち着いて」

聞き覚えのある優しい声、間近に見える瞳には銀の星。まさか、まさか…

「コン…ラッド……?」

間違いない。帽子と髭で顔は隠れているけど、この瞳を持つのは彼と、彼の父親だけ。そして、声と体格が父親ではないことを教えてくれる。

「久しぶり、ユーリ」

彼の手は記憶より幾分か節ばってゴツゴツしているけど、頭を撫でるタッチは今も昔も変わらない。たったそれだけなのにひどく安心してしまい、涙が出そうになる。
でも、何故彼がここにいるのだろう?向こうで家業を継いだと言っていたのに。そもそも、コンラッドの父はサラリーマンではなかったか。

「なんで、ここに?家業って強盗なの?」

「は?」

感動の再会もつかの間、的外れな質問にコンラッドは脱力する。
もしや、昼はサラリーマンだが本当の顔は怪盗!ってのかと思ったのだが、どうやら違うようだ。

「まさか、こんな形でユーリが大きくなった事を実感するとは…」

「コンラッド?」

「家業は見たまま、サンタクロースだよ」

「は?」

コンラッドは何を言っているのだろう。サンタクロースなんているはずがない。だって友達は親からプレゼントをしていたことを母親からカミングアウトされたと聞いた。

「ああ、それは…サンタも万能じゃないから」

コンラッドによると、昔はどの家もサンタクロースがプレゼントを配っていたらしい。しかし、防犯だなんだと泥棒対策が騒がれる昨今、サンタクロースが家の中に入ろうにも玄関に始まり窓という窓には鍵をかけられプレゼントが配れないとのこと。

「だから、本物のサンタがプレゼントを配れる家はわずかなんだ。」

なんと、サンタクロースにそんな事情があろうとは…。ちなみに有利の家は、夢見る夢子ちゃんの母がリビングの窓の鍵を開けていたらしい。

「クリスマスにサンタクロースの出立をテレビで見たことあるだろう?」

「あるけど、ヤラセだと思ってた…」

しかし、コンラッドの話が本当なら一つ疑問が残る。

「ダンおじさんってサラリーマンだったよな?なんで?」

「さっき言ったようにサンタクロースの需要が減っていてね……家業だけだと流石に生活が」

なるほど、副業でサラリーマンをしているわけか。どうやら、サンタ業界にも漏れなく不景気の波は押し寄せているらしい。

「ああ、もう行かないと。」

コンラッドは立ち上がり、部屋の入口へと向かっていく。せっかく会えたのに、もう別れないといけないのか。というか、あまりに平然と歩いていくが名残惜しさとかないのか。

「ああ、ユーリ。なんとか日本担当をもぎ取ったんだ。少なくとも次の編成…五年後までは日本に住むから、またよろしく」

去り際、ドアの隙間から顔を覗かせてそれだけ言って去っていく。

「なんなんだよ、もう」

なんでそんな重要な事最後まで黙ってたんだ、とか色々腹が立たないでもないがまた会えると思うと笑みが零れる。

コンラッドからのプレゼントは新しいグローブ。

もちろん、これも欲しかったものだから嬉しいけど、コンラッドに会えたことが何よりも嬉しかった。



皆様お久しぶりです。
遅れまくってますが、クリスマスフリー小説です。
コンラッドの職業をサンタにしてみましたが、似合いそうにないですね。
ごめんね、コンラッドv
私が今年サンタさんから貰ったのは風邪です・・・。コンラッドにサンタのかっこうさせた罰かしら
背景、お持ち帰りしていただけます。が、お持ち帰りページに↓の素材サイト様を必ずリンクしてください
Photo:Art-Flash


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