心の贈り物
「もうすぐ尊い陛下がお生まれになった日…」
ある日突然、執務中にも関わらずギュンターがぶつぶつと独り言を言い始めた。
「いや、あと三ヶ月あるし。」
ギュンターの独り言は小さな声であったが、紙をめくる音とペンを走らせる音以外はしない部屋では、人の声は結構聞こえるものだ。ましてや、未だ慣れない文字と文法で綴られた書類にうんざりしていたユーリには尚の事。
「やはり、生誕日には眞王廟で…」
しかし、自らの考えに没頭しているギュンターにはユーリのツッコミは聞こえていないのだろう、ひたすらぶつぶつと呟いている。
因みにグウェンダルはというと、端から無視を決め込んでいる。執務に集中していて気付かないのでかと思う者もいるだろうが、あみぐるみを編んでいない限り、ましてや護るべき魔王が近くにいるのだから非常事態にもすぐに動けるよう周りには細心の注意を払っている。ただ、取り合うと碌な事がないので無視しているだけだ。
しかし、ギュンターの妄想は独りでに暴走を始めた。
「いえ、私の陛下が誕生なさったことへの感謝の気持ちは舞踏会などでは治まりません!!ここは、国庫をふんだんに使って盛大な祭りでも・・・」
「ならん!」
「ダメだ!」
この提案には流石のグウェンダルも無視はできず、ユーリと同じに反応を示した。
「眞魔国の祭りはおれも大好きだけどさ、おれの誕生祝なんかに国民の皆さんの血税を使っちゃダメだろう!!ただでも能無しなのに」
「そうだ、いくらなんでも祭りは国庫を使いすぎだ。歴代の魔王も、この小僧も今まで舞踏会で祝ってきているだろう。わざわざ祭りをする必要などない。」
いくらお祭り騒ぎが好きなユーリも質素堅実をモットーとしているため、流石にこの提案には頷けない。珍しくも、グウェンダルと意見が一致した。
しかし、暴走を始めたギュンターは止まることを知らずユーリのお株を奪ってトルコ行進曲を奏で始めた。しかも、教育係を務めることもあって口がうまい。
「あぁ、陛下はなんとお優しいのでしょう。しかし、偉業を成し遂げた陛下の生誕祭が舞踏会のみとはなんとも嘆かわしい。それに、近年地方の祭りが廃れてきて、国民からもっと盛大な祭りがしたいという意見も出てきているのです。祭りは国民にとって楽しむどころか、職人達や飲食店は仕事で腕を振るい、子供だけでなく大人にも心に休暇を与えるものです。やったところで損はないでしょう。もともと陛下は質素な生活をしていらっしゃいますし。」
「や、だからさ、祭りをするのはおれも大好きだからいいんだけど、おれの誕生祝じゃなくって別の機会に国民の慰安祭とかそっちでしない?」
「慰安祭は各地方で行っています。ですから・・・」
と、議論は尽きず堂々巡りをしていた。
これに決着をつけたのは、
「国民の税金なんだし、民に聞くのが一番なんじゃないか?」
という、笑みを浮かべて傍観をしていた次男の言葉であった。
どうせなら、さっさと言って欲しかったものである。
兎にも角にも、国内のいたるところに目安箱を設置したところ、圧倒的支持でユーリ陛下誕生祭は行われることとなった。
流石、国民に愛される庶民派魔王だ。
こうして、恒例行事となったユーリ陛下誕生祭は日数もユーリの誕生日の前日、当日、翌日の3日間となり、花でユーリのオブジェを作ったり、記念硬貨を発行したりと年々グレードを増していった。
そして、今年の目玉は――
「舞踏大会ぃ!?」
「はい、多くの民が目出度い日を迎えた陛下のご尊顔を開催の儀だけでなくもっと近くで拝見したい、と。」
ユーリとしては、こんな平凡極まりない顔を近くでみて何が嬉しいのかわからないという思いと共に、わからない点が多々あった。
「それが、なんで舞踏大会になるの?」
「希望者全員と対面となるとキリがありませんから、何か大会を行ってその勝者のみが陛下と直接お会いできるようにしようと話し合った結果、一番安全で公平と思われる舞踏大会に決まりました。」
また、詳細は一度に大会を行うのは難しいので、前日までに各地方で予選を行い、その上位2名がユーリの誕生日当日に行われる大会の出場資格をもらえ、そこでの優勝者がユーリと対面できるのだとか。
「それって、どんな踊りを踊るんだ?」
「舞踏会での一番人気のものにしようかと・・・」
舞踏会のメインの踊りといえば、地球でいうワルツにあたる。そんなものが国民全員が踊れるのだろうか?日本の感覚で言えばそうそう踊れるものではないと思うのだが・・・
「いえ、あれは上流階級のもの以外はあまり踊らないかと。」
「それは不公平だろ。貴族は夜の晩餐会や舞踏会で会える。だったらもっと公平なものか、一般人に有利なものにしないと、今回の大元の目的にそぐわなくないか?ないの?そういった踊り」
そういった途端、室内にいた重鎮達の表情は苦虫を噛み潰したような顔へと変化する。
「あることにはあるのですが・・・」
コンラッドが答えてくれたが、彼の言葉尻もいまいちはっきりしていない。
「どんなの?」
「地球でいうオクラホマミキサーのようなものです。」
「・・・・」
それを聞いて、見目麗しい眞魔国の人々が踊っている姿を想像する。
・・・・似合わない。いや、でも、もともと外国から来たモノっぽいし、意外と似合うかも?
「・・・どんなのか、みてみたいなぁ。」
ちらりと、視線をやるといつも爽やか笑顔のコンラッドが青白い顔をしていた。
彼がここまで嫌がる踊りとは一体どんなものなのか。
「・・・ダカスコスを呼べ」
暫く逡巡した後にコンラッドが出した結論はダカスコスに押し付けることだった。
いつまでたっても・・・というか、どんどんそんな役回りになっているダカスコスであった。
そして、そのダカスコスが披露した踊りは、
「オクラホマミキサーと盆踊りのドッキング・・・」
ダカスコスだからこそあまり違和感を感じなかったものの(←かなり失礼)、コンラッドやヴォルフラム、ギュンターなどの、美形にはとてもじゃないが似合わない。むしろ踊らないで欲しい、彼らのイメージをこれ以上壊さないためにも。
彼らもそれをわかっているのだろう。だからこそ皆、顔色が思わしくないのだ。だが、裏を返せば美意識のため貴族は辞退するであろうから、一般人にとっては有利であり今回の目的にも沿うというものだ。
「・・・踊りの種目はこれでけってーい。魔王命令です。異論は受け付けません。」
嫉妬深い恋人や、婚約者はあわよくば自分達が優勝の座を狙っていただろう。しかし、そうはいかない。そんなことをされたら、せっかく魔王として国民から直接意見を聞ける場がなくなってしまう。
だから、珍しくもユーリの独断で決定を下した。
案の定、婚約者と恋人は不満そうな顔をしていたが。
そうして、当日。驚いたことに、この舞踏大会の参加希望者は数千人に及び、地方大会の前に村ごとで大会を行ったところもあった。
そこから選ばれた者達は、皆甲乙付けがたかった。少なくともユーリにとっては。
野球のことならわかるが、踊りについては専門外でわかることといえば自分の踊りは下手であるということだけ。なのに、何故審査員になっているのか・・・
審査員はユーリを含め7名。ユーリ以外は皆、この踊りに詳しいその道のプロらしい。
その審査員達の中でも上位3名は票が割れ、まさしく甲乙付けがたいもののようだった。
優勝者となったのはヴォルフラムと同年代に見える少年だった。
「優勝、おめでとう。とってもいい踊りだったよ。」
表彰と同時にユーリが少年に花束を渡す。すると、少年は目から次々と涙をあふれさせた。
「わ、どうしたんだ。気分でも悪くなったのか?あ、違うか、優勝できてうれし泣き??きっとたくさん練習したんだもんな、そりゃ嬉しくって涙がでるよな〜」
「い、いえ、そうじゃないんです。陛下にお会いできたのが嬉しくって」
「おれ?」
少年は鼻を啜りながらもぽつぽつと話してくれた。
少年が住んでいる村は他国との国境に位置するため、いつ戦争になるかと怯えて暮らしていたこと。自分の親友は人間とのハーフであり、村の者にもあまりよく思われず、親にも付き合いを止められていたことなど。
「それが、陛下が人間との国と同盟を結び、交流をはじめて下さった事で村の不安は薄れ他国との商いが盛んになりました。混血に対する偏見もなくなり、今では親友と共に彫刻師の仕事をしています。夢のままだと思っていた夢が実現できたのです。」
その話を聞いていて、ユーリの目にも涙が浮かんできた。書類での報告で、自分の提言していることが少しずつ実現していることは知っていた。しかし、改めて国民からその変化を聞けることは、変えがたい喜びであった。
「陛下には感謝してもし足りません。ずっと、そのお礼が言いたかったのです。本当にありがそうございます。これはお祝いと言ってはなんですが、友人と彫った物です。受け取っていただけますか?」
「もちろん!!」
少年から渡されたそれは、村の特産の香木で掘ったという鳥の置物だった。鳥は大きく翼を広げ、その羽根の一つ一つが丁寧に掘られており、本物の大空を飛ぶ鳥のようであった。
「すごい、こんなにいいもの貰っていいのかな?」
「そんなことございません!まだまだ未熟者です。それは、陛下のために彫らせて頂きました。陛下の周りにある調度品には遠く及ばない粗末なものですが・・・・」
少年は、恥ずかしいのか、照れているのか顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「そんなことない。とっても嬉しいよ。なにより、君の心が。おれはさ、正直言って何が高級品とか、どれがよりいい品かとか、城の調度品がどれくらいするのかなんて聞かなきゃわかんないんだ。だからかもしれないけど、おれはただ高い物より、こうやって人の気持ちがこめられたものを貰うほうが何倍も嬉しい。何倍も価値があると思うんだ」
「ありがたき幸せ」
「そんな畏まらないでよ。ねぇ、いつとは約束できないけど、いつか君の村に遊びに行って、君と君の友達の作品もっと見せてもらってもいいかな?」
「はい!何もない村でよろしければ、いつでも。お待ちしています」
対談は、わずか20分程度のものであったが、そこから得るものはたくさんあった。
もっと、たくさんの人と10分でもいいから話したい。
「ユーリ、ご機嫌ですね。」
「うん。やっぱり、自分のしたことがいいほうに向かっていくって嬉しいな。なぁ、こういった機会を今より短いスパンで設けられないかな?」
「不可能ではないでしょうが、簡単にはいかないと思いますよ。特に、眉間に皺を寄せて執務をしてる人とかね。」
口では、難しそうに言っているが、答えるコンラッドの表情はとても嬉しそうで、どこかいたずらっ子のような表情だった。それを見て、ユーリもクスクスと笑った。
あの人を説得するのは大変だろう。でも、おれが説得しなくちゃ。王様なんだから。
「これから、グウェンダルの説得だ!」
お久しぶりです。これだけは書き上げました、ユーリ誕生日記念小説
ギャグにするつもりだったのにあれぇ?タイトルも最初はダンスパニックだったのに・・・
文才ないうえに、久々なので書き方忘れてます;;
配付期間は有利の誕生日までです。
お気に召しましたらお持ち帰りください♪
感想もお待ちしてます