一日遅れのホワイトデー
今回眞魔国に来たのはバレンタインデー。おれはコンラッドへ、村田はヨザックへのチョコレートを抱えてス
タツアした。
村田とヨザックが付き合ってるらしいとはコンラッドから聞いて知っていたものの、まさかチョコレートを準
備していたとは某携帯会社の料金プラン並みに予想外だ。
だってさ、村田って変なとこで恥ずかしがりやってか意地っ張りってか、まぁそんなとこあるじゃん?
村田は「三倍返しが目的だよ」なんて言ってたけど、本当はヨザックのことかなり好きなんだな〜。うん、う
ん。
そんなおれの考えは間違っていたわけだが。
眞魔国について無事(ホントは無事じゃなかったけど)バレンタインデーを終えて、いつ地球に戻るかを村田に
訊いたところ
「最短でも1ヶ月くらい先かな」
「渋谷も執務がたまってるだろうしね」と言う言葉を鵜呑みにした。そのとき村田が浮かべていた黒い笑顔に
村田やコンラッドから自分で思っているよりも鈍いと称されるおれは気付くはずもなかった。
そしてホワイトデー前日、執務の合間のお茶の時間を村田と一緒に過ごしていたが、その日の村田はどこかお
かしかった。そう、村田やコンラッドに(中略)鈍いと言われるおれでもわかるほど、黒い笑みを浮かべて上機
嫌なのだ。おそろしいくらいに。
「村田、えらい機嫌がいいけどなんかあったのか?」
「正しくは『ある』、かな。ほら、明日はホワイトデーだろ」
・・・・ホワイトデーが楽しみだなんてウチの大賢者様は意外と乙女だったんだな。
「なにせ、三倍返しだからね。」
ん?三倍返し?乙女はそんなこと考えるのか?いや、それよりも
「村田、ヨザックにホワイトデーのことなんて教えたんだ?」
「そんなの決まってるじゃないか。バレンタインデーに貰った物のおおよそ三倍の金額のものをお礼に返す日。
海老で鯛を釣るのに絶好のチャンスをこの僕が逃すはずないだろ。」
大賢者様のあまりの暴君っぷりに魔王のおれも机に撃沈だ。いや、まだ三倍で終わっているだけまだましなの
だろうか。
最近ヨザックの姿が見えないのは村田へのお返しをするために必死に働いてるのだろう。今度グリ江ちゃん用
のドレスを特別手当としてあげようかな。
ん?でもちょっと待てよ
「てことは、、村田もヨザックに何かもらったら三倍返ししなきゃいけなくなるんじゃないか?」
「そこも抜かりはないよ。ちゃんと『お互いに挙げちゃ意味ないからバレンタインデーに渡せるのは初めての
バレンタインデーで先に渡したほうのみ』って教えてるよ。」
おれさー、よっぽど村田のほうが魔王に向いてると思うんだよね。
村田が魔王になったら怖くて誰も反抗できないよね。んでもってきっと人間も村田の黒さを知って退いていく
んだ。そしたら戦争もなくなって世界も平和だね〜。恐怖政治だけど。
「そういう渋谷は楽しみじゃないのかい?」
コンラッドからのお返しがと言うことだろう。普通なら楽しみにしてるだろう。でも、おれはそうじゃない。
だって、おれとコンラッドの間にはホワイトデーなんてないから。
「別に。ってかコンラッドに教えてないもん、ホワイトデー」
アメリカにいたコンラッドのことだからバレンタインデーやホワイトデーについて知っているかと思いきや、
まったくと言っていいほど知らなかった。だからバレンタインにあげたのもおれだけ。おれもホワイトデーの
必要なし。
村田のメガネの奥の目が見開いて一度パチクリと瞬きをする。
「なんでまた。」
「バレンタインデーだっておれの自己満足みたいなもんだしな。お礼が欲しくてやってるんじゃないし」
「無欲だねぇ」
村田はそういうけど、ホントはそのお返しが怖いのだ。いや、正しくはお返しについてくるオマケが怖い。
「でも、なら納得いくな」
「何が?」
いったい今の会話で何がわかるというのだ。
「ウェラー卿だよ。彼のことだからホワイトデー前はきっちり予定を空けてせわしなく準備に明け暮れている
かと思いきや、視察で遠出と来た。彼にしては珍しいなって思ってたんだよね。」
「あぁ、そういうことか」
そう、コンラッドは今、先日の大雨で川が氾濫し水没しかけた町の復興作業の視察に行っている。
戻ってくるのは明日の夜。
だから、村田とのんきにホワイトデーについて語れるのだ。じゃなきゃ、今頃コンラッドにホワイトデーのこ
とがバレやしないかと気を張り詰めていただろう。
そうして、ホワイトデーも特に変わらない日常を送った。いや、ものすごい死相が出ているのにどこか嬉々と
しているヨザックが見れたのは珍しいかもしれないけど。
夕方になればさわやか好青年な笑顔を浮かべ「ただ今戻りました。陛下」というコンラッドを同じく笑顔で「陛
下なんていうな、名付け親。おかえり」と迎えた。
そうしておれはホワイトデーを隠しきり、いつも通りの生活がまた始まると思っていた。
が、次の日の朝からコンラッドの様子がおかしい。話す内容も仕草もいつもと変わらないのだが、なんとなく
怒ってる気がする。
何か悪いことしたかな?
そう思ってたずねるけど、
「陛下の気のせいです」
の一言で終わり。でも、絶対におかしい。
釈然としないおれは夜にコンラッドの部屋を訪れ再度詰め寄った。
「今日のコンラッド絶対におかしい!おれをごまかせると思うな」
おれはあんたの顔見なくたってあんたの気持ちわかんだかんな
「・・・では、ユーリ。なんで俺に隠してたんです」
隠す?何を。
おれは昨日ホワイトデーを乗り切ったことで、すっかり「ホワイトデー」を隠していたことを失念していた。
「おれ何も隠してないよ?」
おれが隠し事出来ないのあんた知ってるだろ?
「ほんとにそう?昨日のことも?」
昨日ってなにかあったけー。昨日はホワイトデーって事以外なにも・・・
・・・・・・ホワイトデー・・・・・・・・・・・・・・・
まるでサーっと音でもするかのように頭から血が引いていく。
「何か思い当たる節があったようですね」
い、いたい!いたいよコンラッド。その視線がさぁ!
やばい、怖くて顔を上げれない。今絶対、コンラッド笑顔だよ。絶対零度の。
「誰に聞いたの?」
その答えは簡単。今まで自分で気付かなかったのがおかしいくらいに
「ヨザックです」
そうだよ。ヨザックとコンラッドってば幼馴染じゃん。つぅ事はヨザックの情報がコンラッドに渡ってもおか
しくないわけで・・・・
なんで口止め忘れるよ、おれ。
どんどん縮こまっていくおれを見てるコンラッドの視線はまだ冷たい。
「もう一度聞きます。なぜ、教えてくれなかったんです」
お返しのオマケが怖いなんて口が裂けても言えない。そんな事言ったら明日絶対立てなくなる。
「だって・・・お返しはもうもらったから。これ以上もらっちゃ悪いし」
事実、次の日コンラッドからお礼にとおいしい焼き菓子をもらった。だから嘘じゃない。
そして、ちょっと上目遣いで憐れみを誘うように見上げる。これの何処がいいのはおれには全くわかんないけ
ど、これならコンラッドもだまされてくれるはず。
「ユーリ、そんな顔をしないでください」
お、効いた。声がちょっと柔らかくなったぞ。
「ちゃんとそういう日があるのならば、その日にもあなたに何かを差し上げたいんです。それとも俺が差し上
げるものは気に入りませんか?」
「そんなことない!コンラッドからもらって嬉しくないものはないよ」
だって、コンラッドはいつもおれのことを考えて選んでくれてる。コンラッドから貰った物で不満に感じたも
のなどひとつもない。
「じゃぁ、これを受け取ってくれますか?一日遅れになってしまったけど」
そういってコンラッドが差し出したのは、マントの留め具につける装飾品。それは金のような金属で出来てい
てデザインも繊細で緻密。高価なものなのが一目でわかる品だ。
「すごい・・・これ、高かったんじゃない?」
いや、高くないはずがない。
「見た目ほど高くはありません。ただ、三倍返しと聞いたのでそれなりのものは用意させてもらいました。」
そうだ、ヨザックが与えられた情報が間違っていたらヨザックから聞いたコンラッドの情報もまた間違い。
「違う!その情報違うよ、コンラッド!!」
おれはあわてて訂正するけど、コンラッドはどうやらヨザックが嘘の情報を教え込んだと思ったようで
「ヨザックのやつ・・・」
と横を向いて舌打ちをする。
いけない、このままだったらせっかくの見事な上腕二等筋を持った美女(?)が一人消えてしまう。
「ヨザックは悪くないよ、村田が教えたんだ!」
「猊下が?」
そうして、おれはコンラッドにいちから全部を話した。ついでに正しいホワイトデーも
うぅ、今回も隠し通せなかった。
「ってなわけ。」
「まぁ、猊下らしいといえばらしいですね・・・」
どうやらようやく納得のいったご様子。
「だろ?あ、もうこんな時間か、じゃあコンラッドおやすみ」
そう言ってそそくさと睡眠モードに入ろうとしたが、
「ユーリ、そうはいきませんよ。まだ、全部渡し終えたわけではありませんし、俺に隠し事をした罰もありま
すからね」
そう、腕を引っ張られ押し倒される。
「夜はこれからですから」
俺は一生懸命もがいて逃げようとするが、体格体力共にコンラッドには劣る俺が適うはずもない。
「これが嫌だったんだー!!!」
つい、口をすべらせ本心を滑らせてしまったおれは次の日の執務は前面休業となった。