今年は張り切って



最近、女子達は妙に張り切っていて、男子達はそわそわしている。
その理由は明白。2月14日―バレンタインデー―が近づいているからだ。
ちなみに、渋谷有利もそわそわする立場だが、その理由は他の男子とは異なる。他の男子がそわそわする理由は義理でもいいからチョコがもらえるかどうかであり、それに対し、渋谷有利は昨年からあげる側であり今年は何をあげようかと考えているからだ。

(今年は何あげようかな・・・そういえば、この間持って行った紅茶のクッキーが気に入ってたみたいだから、それが入ったお菓子の詰め合わせにでもしようか?)

そんなことを延々と考えているのだ。そして、この案で最終決定を下そうとしたとき、女子の会話が大きな爆弾を落としていった。



「む〜ら〜た〜」

「うっわ、すごい顔・・・どっかの汁まみれの王佐みたいだよ、渋谷」

女子の爆撃をモロにくらったユーリは、放課後になると早々にダイケンジャーこと親友の村田に泣きついていた。

「全然オブラートに包めてないから、それ。それよりも!!村田ん家の台所貸してくれ!そして、チョコ作りを手伝ってくれ、いや、見てるだけでもいいから!」

村田へのツッコミもそこそこに平伏してお願いするユーリに、村田は呆れ返っていた。
そもそも、肝心なそのお願いにいたる経緯を説明するのをすっ飛ばしている。

「あーっと、渋谷?返事の前になんでそこに至ったのかを教えてくれない?話が見えないんだけど。あと、ついでに顔も上げよーね。公共の場で恥はかきたくないんだ。」


場所は移動して、村田家リビング―

「つまり、渋谷の話をまとめると、『手作り』チョコでないと義理だと勘違いする薄らトンカチがいるから本命は『手作り』チョコに限ると?」

「そうそう」

ユーリが小耳に挟んだ女子生徒の会話はあまりにも極端な話であった。
様々なバリエーションが求められる昨今、バレンタインデー=手作りチョコとはいかなものか・・・

「それで、渋谷の家で作ると何かと五月蝿いから、親が留守がちの僕の家で、しかも不安だから僕に付き添えと?」

「ソノトオリデゴザイマス」

あまりにも単純で騙されやすいユーリの性質(タチ)に思わず深々と溜息を吐いてしまう。

「なぁ、ほんと見てるだけで良いんだ」

見てるだけと言いながらも、危なっかしい手つきで作業をするだろうユーリに手を貸さずにいられるわけがない。
しかし、ユーリに甘いのは、渋谷家や眞魔国の面々だけではない。自分もだ。

「しょうがないなぁ・・・」

「マジで!?やった!村田サンキューな」

いつまでも変わらないその笑顔を見ると、思わずホッとしてしまう。
やはり、黙っておこう。眞魔国にはそもそもバレンタインなんて風習はないし、アメリカ式のバレンタインしか知らないウェラー卿がそんな日本独自の考えで左右されることはないということを。
だって、面白いから。

「ところで、渋谷。材料とかはどうするんだい?」

「あ、大丈夫!もう買ってきてるから」

「・・・・相変わらず、素晴らしい行動力だね」



三時間後、村田は自らの行動に少なからず後悔していた。

「お〜出来た。これで完璧だな」

ユーリは上機嫌だが、村田は疲れ果てていた。
ユーリが脳筋族で繊細な作業は苦手であることは知っていた。知っていたが、此処までひどいとは思わなかった。
生クリームの分量は計量カップを用いているにも拘らず目分量、「あらかじめチョコを細かくしておく」と書いてあれば、擂粉木棒で叩いて砕こうとする、と大雑把にも程があった。
よっぽど村田一人で作ったほうが早く効率よく出来たのではないだろうか。

「あ、ところで村田。村田はヨザックに作ってあげないのか?」

「あぁ、ヨザックの分は500円のチョコを買ってきてあるから。特に作る必要はないね」

その答えは予想だにしなかったのだろうユーリは固まったかと思いきや、わたわたと慌てだした。

「え、一応ヨザックって本命なんだよな?なのに手作りじゃなくていいのか?ってか、いくらなんでも500円って安すぎじゃねぇ?」

ユーリにかかっても本命の前に「一応」が付いてしまうらしい。憐れ、ヨザック・・・

「一応他の人とは区別付けてるんだから、いいんだよ。手作りなんかあげたら反応がウザイし。アッチには値段なんてわかんないだろうから、2000円とでも言っておくよ」

そう答えた村田は笑顔だったが、背後はそれはもう関係のない身でも寒気がするほど真っ黒であった。
しかし、果敢にもユーリはツッコミを忘れない。

「ウザイって…つーか値段ごまかしたら詐欺だよ!もしかしなくても、去年もこの手で…!」

去年は村田が三倍返しですむなんて(←)と思っていたが、四倍の三倍、つまり実際は12倍返しだとは、やはりおそるべし大賢者。いや、こんな悪徳商法並の手を使うやつを賢者などと呼んでいいのだろうか…

「もちろん。要はばれなきゃいいんだよ。そう、渋谷が黙っていれば。」

その時の村田のオーラは絶対に
もちろん黙ってるよなぁ?僕の楽しみの邪魔をしたらいくら渋谷でもピーをピーしてピーするよ?
と放送禁止用語を並べたて、縦に首を振るしかない状況を作っていた。

蛇足ではあるが、他の人へはユーリはチ○ルチョコ、村田は5円チョコである。
しかも、(五円って)と半ばあきれ気味のユーリを尻目に「五円っているのは縁と掛けていて『御縁がありますように』って意味もあって、地球の日本じゃ縁起がいいものなんだよ」なんて言ってのけて、グウェンとヴォルフには感心を、ギュンターには感激をさせていた。



そんなこんなでバレンタイン当日、スタツアで眞魔国へ・・・

「っぷは!!」

「ねぇ、渋谷。いい加減水以外でスタツアできるようにならない?」

到着場所はお馴染みの血盟城噴水。濡れないようにしっかりと梱包してきているがやはり不安はあるらしい。
なにより、濡れた服が肌に張り付く感覚はいつまでたっても慣れることなく気持ち悪い。

「・・・・まだコントロールできません・・・」

まだまだへなちょこなユーリであった。

「ユーリ!!」

「コンラッド!」

コンラッドの姿を見るやいなや一目散にコンラッドの元へ村田をほっぽって行く。
そして、タオルをかけてくれる恋人にこっそりと耳打ちをしている。内容は考えるまでもなくわかるが。
村田はいつもの事だと溜息をひとつ吐いてあたりを見回す。しかし、いつも自分の所に一番に駆けつけてくるお庭番の姿は見当たらない。変わりにやってきたのはグウェンダル。

「ヨザックは任務かい?」

その問いかけに渋い面を持ったグウェンダルが一つ頷く。しかし、その顔は厳しい。

「今日は嫌だと、ものすごく駄々を捏ねてたんですよ。あのガタイで駄々を捏ねる姿は気色悪いにも程がありましたが。」

爽やかに追加説明をするコンラッドであったが、村田にはその顔にざまぁみろと書いてあるようにしか見えなかった。

「絶対に今日中に帰ってくるとも喚いていたな」

これはヴォルフラム。
それを聞いて、クスリと笑みを零してしまう。帰ってくるといったら、たとえ日付が変わる直前でも今日中に帰ってくるだろう。
なにせ、アルノルドから見事帰還した二人のその執念は恐ろしいほどに強いからだ。・・・それだけの執念がないと生き残れないような惨状だったのだろうが。

その日は着いたのも遅かったため、チョコを城の人たちに配って夕食を食べるだけで解散となった。
そして、夜―

「コンラッド、入っていい?」

日付が変わるまであと1時間というところで、ユーリはコンラッドの部屋を訪れていた。
コンラッドは足音を聞きつけていたのだろう。ユーリが口を開くと同時に扉を開いてくれた。

「どうぞ。遅かったんですね」

「ん、今日はなんかやたらとヴォルフラムが語りだしたんだよ。どうにか終わらせようと思ってもなかなか終わんなくってさ。おれが今日は疲れたからもう寝たいって10回いってようやく止めてくれたんだ。」

クスクスと笑いながら話を聞いているコンラッドに促されるまま椅子に座ったユーリの目の前には・・・

「これって」

「ええ、俺からのバレンタインのプレゼントです」

紅茶のクッキーと生チョコが用意されていた。しかも淹れたての紅茶付きで。

「すっごい!なぁ、食べてもいい?」

「もちろんです」

紅茶のクッキーはほんのりと甘く、紅茶の香りがうるさくない程度に程よく香り、生チョコはストレートの紅茶に合わせて少し甘めに作ってあった。

「ぅんまい!!これ、めちゃくちゃおいしいよ」

ユーリが感激できらめいた目を向けると、コンラッドがどこか安心したように柔らかく微笑んだ。

「良かった。紅茶のクッキーは初めて作ったんで口に合わなかったらどうしようかと思ってたんです。なるべくこの前いただいたものに近い感じで仕上げたんですが。」

「え!これコンラッドの手作りなの?すげー・・・それに比べて・・・・」

だんだんと、落ち込んでいくユーリ。コンラッドは何かまずかっただろうかと慌ててしまう。

「あのさ、これ・・・」

ユーリから差し出されたのは丁寧に包装された小さな箱。

「これ俺に?」

コクリ

「ありがとう、ユーリ。開けても?」

コクン

包装を破らないように外して箱を開けると、そこには4つの丸いチョコが。

「トリュフですね」

「うん。頑張ったんだけどさ、おれ、普段から料理しないから歪だし、味も保障できない・・・」

ユーリが落ち込んだのは、コンラッドがいけなかったというより、自分の作ったものに自信が持てなかったからなのだろう。

「一ついただきますね」

コンラッドは白い粉砂糖がまぶしてある一つを取り上げて口へ運ぶ。
口の中で溶けるその味は、コンラッドのことを考えてほんのりとビターにしてあった。

「ビター・・・けど苦すぎはしない・・・。とてもおいしいですよ、ユーリ。俺の好きな味です。なにより、貴方が俺のために作ってくれたその心がおいしい。」

この二人の夜は、チョコよりも甘く穏やかに更けていった。


一方、大賢者こと村田の方は・・・

ドタバタ バタン

「猊下、ただ今帰ってまいりました!!」

「おかえり、まさか本当に今日中に帰ってくるとはね」

日付が変わるまであと30分弱。流石のヨザックも今回は無理だろうと予想していたのだが、体力自慢のお庭番は息を切らしつつも日付変更まで多少の余裕を持って帰ってきた。

「当たり前です。今日を逃したら来年まで絶対にくれないでしょう?バレンタインデーチョコ」

「まぁね」

ホントは今日を逃しても仕事だったから仕方ないねと言って(散々からかってから)渡すつもりだったのだが。そういうと調子に乗るので絶対に言わない。

「はい、これ。今年も3倍返しでよろしくね」

喜んで受け取ったはいいが、最後の言葉にそのまま凍りつく

「え?それは嘘なんじゃぁ・・・」

去年のことを思い出して思わず青くなる顔。そう、去年は間違った情報を幼馴染に流したがために死ぬよりも恐ろしい目にあったのだ。

「一般的にはね。でも、僕の場合は3倍返しじゃないと許さないよ?なに、君の日給よりは安いだろう?」

そうは言いつつも実際には12倍。ヨザックは知らないのだが・・・

「ハ・・・ハハハ・・・・はぁ」









バレンタインフリー小説です。村田を黒くしてみましたv
あ、実はこれは去年執筆した「一日遅れのホワイトデー」とつながってます。(宣伝?)
フリー小説ですので、背景以外はご自由にお持ち帰りください。
あとあと、感想もおまちしてまーす


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