大賢者の華麗なる(?)陰謀
晴れ渡る青い空には雲ひとつなく、太陽が惜しむことなく大地を照らす。
小高い丘には緑が萌え、見渡す限りの草原となり、木々は潤い葉を揺らし、人々に憩いと癒しの場を与
える。
花畑は様々な花が我先にと咲き誇り鮮やかに彩られる春。
町では買い物ついでに談笑を楽しむ人にとで賑わい、子供達は路地を駆け回り、小鳥達も空で楽しそう
に戯れている。
そのなかに「エンギワルー」と聞こえてもそれはまたご愛嬌、長く続く争いに終止符を打ち人々の不安
も拭われた今、眞魔国は活気に満ち溢れ今日も平和だ。
第二十七代魔王陛下、渋谷有利。
黒い髪に黒い瞳の典型的な日本人。
「じゃあ、原宿は不利なのかよ」と、推定五万回は言われからかわれてきたけれども、頭のできもそこ
そこなりゃ高校もそこそこの県立高校に通ういたって平凡な男子高校生だ。
そんなおれが、いきなり魔王にされたのが15歳のとき。
不良に絡まれている知人を助けようとした挙句、トイレに連れ込まれ、連れ込まれた先の水洗便所から
スタツアしたおれを待っていたのは「おめでとうございます、今日からあなたは魔王です!」という、あ
たかも商店街の福引の大当たりを告げるかのような台詞。
なんてこった、突いてもいない薮から蛇が出てしまった。
そこで丁寧に辞退するかとんずらすればよかったものを、この世の常識を変えてやらんとばかりに大見
得を切ったのが運のツキ。
世にも過酷な魔王業の始まりだったのである。
王様と言ってもただ威張っておけば言い訳じゃない。
肉体労働あり、頭脳労働ありだ。
肉体労働はいい。
なんたっておれは脳筋族だし、「永世平和主義」を唱えたのもおれだ。
だから、そのためにあっちこっち行き来するのはかまわない。
他の国や土地だって見てみたいし。
問題は頭脳労働だ。
さっきも述べたように、おれは脳筋族で執務なんて机に齧りついてなきゃいけない仕事ははっきり言っ
て性に合わない。
だいたい、アメリカ生まれで帰国子女と言い張ってるけども、日本育ちで日本語以外全くわからないお
れは、この国の文字をろくに読めやしないのだ。
逃げ出したくなるのも当然だろう?
しかも今日は野球小僧には嬉しい快晴、絶好の脱走日和だ。
だが、今日に限って看守・・・いや高官が勢ぞろい。
「なぁ」
「駄目だ」
「だめです」
「ダメに決まってるだろう」
主語も述語も目的語も補語すらないおれの言葉が三方から一斉に却下される。
「なんだよ、まだ何も言ってないぞ」
「ふん、お前のことだ。どうせきゃっちぼーるとかいうのがしたいと言うんだろう」
「う」
「だからへなちょこだというんだ」
いつもならここで、「へなちょこ言うな!」と言い返すのだが、今日は分が悪い。
「うぅ・・・」
最後の頼みの綱・コンラッドに目を向けるが腕を組んで窓枠に寄りかかりただ微笑むだけ。
こうなったら一点集中、泣き落とし(?)だ。
「ギュンター・・・」
目線は勿論上目遣い、目はかるくうるうるさせて手は組んで胸元へ。
最後に首をかしげて花を飛ばせば出来上がり。
名付けて「お願い聞いてくんなきゃ泣いちゃうかもよ?」作戦だ。
アニシナさんに負けず劣らずまんまな命名だが、ようは効けばいいのだから無問題。
「あぁ陛下、そんな可愛らしくも魅惑的で悩殺的な姿で私を見ないでください。そんな目で見つめられ
ては、私・・ぶひゃっ!!」
効果抜群。次はここでグウェンダルが・・・・
「ユーリ〜・・・この浮気ものが!!いくら見目がいいからと言って所かまわず色目を使うな!貞操観念と
いうものを覚えろ!!!」
って、えぇ!そうだった、今日はヴォルフラムが居たんだ。
どうしよう、ますます抜けられなくなってきた・・・・
誰か・・・神様、眞王様、大賢者様、誰でもいいから助けて!
「ちょっと失礼してもいいかな?」
うわぉ、マジで来てくれたよ大賢者様。
「む・・・村田いいところに!」
どうにかこの状況を打破してくれ。
もうキャッチボールなんて贅沢は言わないから、せめて息抜きをさせてくれ。
「あ、いたいた。今からお茶しようと思うんだけど、ちょっと渋谷借りてもいいかな、フォンヴォルテ
ール卿?」
ナイッス提案!ほらほら、グウェンダル、大賢者様からの直接のお願いだよ?
断れる?断れないよね。
「・・・・このままいられても騒ぎが広がるだけで、仕事が進まん。いいだろう。」
「やった〜!!!」
それを聞いた途端、ペンを放り投げ、椅子を蹴り飛ばして村田の手を引いてテラスまで駆け出した。
「村田、マジでサンキューな。本当に助かった〜」
「君が逃げ出したがるのはいつものことだけど、今日はまた一段とすごいね。一体どうしたんだい?」
おれが逃げ出すきっかけを作ってくれた村田もさすがに驚いて目を見開いている。
「だってさ、こんなにいい条件のそろった天気なんだぜ?こんな日に一日中執務室にこもってるなんて
冗談じゃない。この際、野球じゃなくていい。とりあえず外にでたかったんだよ。」
「なんだい、僕とのお茶は二の次かい?」
村田もそう言ってくるがその言い方にいやみは無く、むしろしょうがないなといった感じが受け取れる。
そうやって、たわいの無い話をしながらコンラッドがお茶とお茶請けを運んでくるのを待つ。
だけど、今日はなかなかやって来ない。
どうしたのだろう、今日はそんなに手間のかかるお茶請けで作っているのか?
「・・・ウェラー卿、遅いね」
「だよな。いつもならもうとっくに来てるはずなのに・・・」
「どうしたんだろう?」と言おうとしたとき、テラスにつながる部屋の扉が大きな音を立てて開けられ
兵士が三人雪崩れ込んで来た。
「陛下、厨房で火災が起きたとのことです!急いで眞王廟のほうまで避難してください。」
そう告げた兵士の声はあわてているのか、かなり早口で聞き取るのが難しかったがなんとか聞き取れた。
厨房で、火災?
「コンラッド!!」
「渋谷!!」
「陛下、お待ちください!」
引きとめようとする兵士と村田の声を無視して、厨房のほうへ全速力で駆けていく。
コンラッド、無事でいて。
コンラッドがもう厨房を出ていたのなら、ここまでの道で出会うはずだ。
でも、もう厨房まであと少しというところになってもコンラッドと会うことは無かった。
コンラッドはもう火災に巻き込まれているとしか考えられない。
おれが厨房に着いたとき、扉からは黒い煙がもうもうとたっていた。
中ではパニックになっている人たちの声も聞こえてきた。
「コンラッド!!」
いるなら、無事なら返事をして。
「ユーリ、なぜここに!?はやく避難してください、ここは危険です!」
煙の中から、コンラッドの声がする。やっぱり巻き込まれてたんだ。
「コンラッドを置いてなんかいけないよ!」
コンラッド、いるならなんででてこないの?
それとも出てこれないほど中は火が回ってるの?
「俺は大丈夫です。ですから、はやく避難を!!」
嘘だ。大丈夫なはずが無い。
大丈夫ならすぐに飛び出てくれる人だ。
助けなきゃ
そう思った瞬間には身体が動いていて、おれは煙の立ちこめる厨房に飛び込んでいた。
そして、飛び込んだ先で見たものは・・・
「魚の炭火焼??」
そう、厨房の中は煙で充満していたが火事のような火は無く、壷に入れられた炭火であぶられている魚
が床いっぱいに敷き詰められていた。
「ユーリ、本当の火災だったらどうするんです。死んでましたよ?」
コンラッドは執務室にいたときと同じようにゆったりと腕を組み、壁にもたれかかっていた。
「そんときゃ兵士が担いでも避難させますって」
そう横槍を入れてきたのは、床にしゃがんで一生懸命煙を起こしていたヨザック。
「どういうこと?」
何がおきているのか全くわからない。
厨房の中にいた他の人たちもおかしそうに忍び笑いを浮かべている。
「全く渋谷は本当に単純だねぇ」
そういったのは、村田。
おれの後を追ってきたのだろうけど、歩いてきたのか息も切れてないし余裕綽々といった感じ。
なんで、この状況に平然としているのか。
「渋谷、今日は何の日でしょう?」
今日?なんかあったっけ?
「じゃあ、今日は何月何日?」
「今日は、四月・・・一日・・・」
つまりは、そういうことなのだ。
エイプリルフール
「ご名答。でも、普通は厨房の前に着いたときに気付かない?消化や救出にあたる兵士がいないなんて
不思議に思うだろう?」
「だって・・なんでコンラッドたちが?」
彼らがそんな地球の習慣を知ってるとは思えない。
「僕が話して協力してもらいましたー」
そういう村田の顔は満面の笑みで、ピースまでしている始末。
「猊下いわく、『サンマのスミビヤキであらビックリ』だそうで。で、サンマとスミビヤキってなんで
すか?」
ヨザックわかって無いじゃん!ってか手伝うなよおれをからかうの。一応魔王なんだぞ
でもさ、いくらエイプリルフールだからって
「ふざけるのも大概にしろ〜!!!」
おれの叫びは血盟城中に響き渡ったらしい。
眞魔国は今日も平和だ。