「HAPPY BIRTHDAY、ユーリ」

日付が変わると同時に囁かれた言葉

プレゼントは瞼へのキス

それに「ありがとう」と答え、抱きしめてくれている彼の胸に頬を寄せ、静かに目を閉じた。



Are you happy?




「ぅん」

穏やかに眠っていたユーリが目を覚まし、薄く目を開いた。
なかなか意識がはっきりしないのか、しばしユーリはシーツを被ったまま呆うけていた。

腰がだるい…

のそりと起き上がったユーリは腰の重さに顔を顰るが、すぐに昨夜の情事を思い出して顔を赤らめた。
と、ふと顔をあげ、キョロキョロと辺りを見回した。

コンラッド??

捜していたのは、本来目の前にいるはずの恋人の姿。
ユーリが目を覚ましたことに気が付くと、柔らかい笑みを浮かべ「おはよう」と言うはずの彼の顔がどこにも見当たらない。
それどころか

「ここ、何処??」

全く知らない部屋にいた。いや、内装からして血盟城だということはわかった。でも、来たことのない部屋だ、たぶん。

「おれって・・・もしかして夢遊病者??」

昨夜の行動を思い返すが、自分でここに来た記憶は無い。昨日は確かに彼の――コンラッドの部屋で確かに寝たはずだ。
だが、コンラッドがユーリの自室に運ぶならともかく、こんな行ったこともないような部屋に運ぶはずがない。
と、いうことはだ、自分がいつの間にか来たとしか思えない。

あぁ・・・・どうしよう・・・

ここでじっと考えていても仕方がないので、取り合えず起き上がって部屋の中を見回した。
よくよく見ても、やはり見覚えがない。
そして、部屋を見回した際に窓から覗いた太陽はすでに空高く上がっていた。
つまり、今はもう昼と言うこと。寝坊に寝坊を重ねたことに気付き、自室にいないユーリを心配して、皆が捜索しているかもしれない。

もし、そうだったら今頃大変なことに・・・・

皆がユーリを探して慌てふためく姿を想像して、ユーリの顔色はどんどん蒼くなっていく。
早く皆のところに行かなければ、そう思って部屋を飛び出すが部屋の外には誰もおらず、しかも全くもって来たことがない場所なのでここが血盟城のどこに位置するかもわからない。
と、いうのも血盟城はありえないくらい広いのだが、使う部屋は一箇所に集まっており城全体の構造を覚える必要は全くない。実はユーリ以外のものはこの城に昔からいるのでこの城の構造はだいたい把握しているのだが、ユーリは新米魔王、たとえ執務室から脱走して探検をしていたとしても全体像を掴むのには程遠かったのだ。

広い通路に出れば誰かいるかな?

部屋の前の廊下を歩き、その向こうに見える通路を目指して歩く。
すると、そこの曲がり角からコンラッドがやってきた。

「コンラッド!!」

「おはようございます、陛下」

「へーか言うな名付け親」

「すみません、ユーリ」

「ん、それで、どうしてコンラッドはここに?」

いきなり現れたコンラッドはてっきり自分を探していたのかと思えば、自分がここにいることに安心するでも驚くでもなしにどうもそうではない様子。

「ユーリを起こしに来たんですよ。もう起きてたみたいだけどね」

「えっ、起こしにって、コンラッドおれがここにいるの知ってたの!?」

「ええ、運んだのは俺ですから」

どうりで落ち着いているはずだ。慌てて損した気分にちょっと肩を落としてしまう。

「起きたら誰もいないし、知らない部屋だしで、おれてっきり夢遊病になったのかと思ったじゃん」

つま先の方へ視線を落として、むくれている様子は魔王という特殊な立場にある身でも年相応の子供らしさを残していてとても可愛らしい。

「ごめん、ちょっと事情があってね」

コンラッドが苦笑しながら言う。

「おれに言えないようなことなの?」

今度は、気落ちした顔。きっと猫のような耳と尻尾が付いていたのなら萎れていたのだろう。

「すぐにわかりますよ」

しょんぼりとうなだれるユーリの頭を軽く二回撫でて先を促す。

「む〜。しょうがないからそのことについてはもう聞かないけど、もしおれが早く起きて勝手にほっつき歩いてたらどうするつもりだったんだ?」

ユーリは部屋の周りには誰もいなかったと思っているようだが、魔王の身は例え城内といえども常に誰かしらが護衛するようになっているので、ユーリが一人になることはまずない。
勿論さっきまで衛兵がユーリの護衛をしていたのだが、ユーリが部屋の扉に近づいてくる気配を感じて隣の部屋に隠れているのだ。
もし、ユーリが一人でどこかに行こうとしようものなら彼らがどうにかして引きとめていたであろう。

「大丈夫、それもちゃんと手は打ってあったから」

「どういうことだよ、それは」

「すぐわかるよ」

そう答えるコンラッドは満面の笑みでこれ以上質問しても答える気はないと暗に示していた。

「・・・さっきからそればっかり」




「あれ?ここって大広間じゃん」

コンラッドに促されて着いた先は広間。てっきり執務室か自室に行くと思っていたのでちょっと拍子抜けしてしまう。

「ええ、そうです。さ、入って」

コンラッドに有無を言わさず背中を押され、つんのめる形で部屋の中に入っていく。
不細工な体勢にはなったが、なんとかこけずにすんで顔を上げると、

「「「はっぴばーすでい、陛下!!」」」

城で働いている皆が、集まっていた。

「あ、ありがとう」

誕生日を祝ってくれているというのはわかったので礼の言葉は述べるが、状況が理解できない。
たしかに、今日はおれの誕生日を祝って盛大なパーティーを開くとは聞いていた。
けれども、それは今日の夜だし、会場ももっと広い部屋―戴冠式を行った眞王廟を使うと聞いていた。

「陛下、陛下がご出自なされた今日という日を私は感謝いたします!!うっうっ、偉大なる眞王とその民たる・・・」

ギュンターはギュン汁を振りまきながら眞魔国の正式名称を叫んでいる。相変わらずこわれてるなぁ。

「どうした、ユーリ!このぼくが祝ってやっているというのに嬉しくないのか!?」

ヴォルフラムは今日の主役のおれより偉そう・・・

「ところで“はっぴばーすでい”とはいったいどういう意味なんだ」

「ただしくはhappy birthday。地球の言葉で誕生日おめでとうと言う意味だよ」

「へ〜そうだったんすか」

お前ら意味もわからず言ってたのかよ!というツッコミをせずにはいられないような会話をしているのはグウェンダルと村田とヨザックだ。
他にもダカスコスやギーゼラ、自由恋愛旅行に出かけていたはずのツェリ様、はては名前も知らない兵士までがいる。

部屋をぐるりと見渡してみると、簡素だがパーティーらしい飾りつけがされている。
でも、やっぱり訳がわからなくて後ろに立っていたコンラッドを仰ぎ見る。

「夜のパーティーでは来訪してきた貴族の相手が主となるから、その前に内輪のもので祝おうということになったんだよ」

おれから何か聞いたわけではないが、コンラッドはおれの思いを汲み取って的確に答えをくれる。

「特に、パーティーで警備に当たって参加できない兵士達がどうにかして祝いをいう機会はないかと言っていてね」

コンラッドはさらりと言っているが、今までの王、ツェリらも決して嫌われていたわけではないが、このような意見が出てきたことは一度たりともなかった。いわゆる前代未聞である。
そして、このことはどれだけユーリが民から慕われているかを象徴的に示す事柄だった。

「そうなんだ。今までの誕生日で一番嬉しいかも」

もちろん、ユーリはそんなことこれっぽっちも気付いていなかったが。

「しーぶや」

「村田!」

村田がニコニコと上機嫌で手を振りながら近づいてくる。

「誕生日おめでとう。ところで気分は悪くないかい?」

「ありがとう。なんで??」

どこがどうつながって、村田の質問が出てきたのだろうか?
昼までいなかったのを体調が悪いと勘違いしている?

「おや、ウェラー卿から聞いてないのかい?」

「コンラッドから?何を??」
チラリとコンラッドを盗み見ると、バツが悪そうに苦笑いをしている。
そして、何故か村田の後ろにいたヨザックもあらぬ方を向いて遠い目をしている。

「ねぇ、渋谷。いくら昨夜ウェラー卿に存分に可愛がってもらったとはいえ、こんなおやつの時間近くまで寝てたなんて不思議だとは思わないかい?」

「か・・・かわ・・・って」

遠まわしながらも露骨な村田の言い回しに、いつまで経っても恋愛初心者の感が抜けないユーリは顔を真っ赤にしてどもる。

「それはいいから、おかしいとは思わなかったのかい?」

「う、確かに寝すぎてた気が・・・って、まさか・・・」

目の前の村田は相変わらず上機嫌に笑っている。それはもう、怖いほどに。

「今日は冴えてるみたいだね、渋谷。そのまさかだよ、ウェラー卿に睡眠薬を盛ってもらったんだ。」

どこから取り出したのだろう、村田は和風の扇子をゆったりとあおぎはじめた。

「コンラッド・・・いつ?」

胡乱な目で見上げればコンラッドはわざとらしく目線をはずす。

「水に」

水。水と聞いて昨夜のことを思い返してみると、眠りに落ちる直前、声が嗄れてしまっているからとコンラッドが水を飲ませてくれた。あれか。

「大丈夫、ちゃんと副作用や依存性のないものを選んだから」

村田のその言葉に、「そういう問題じゃないだろ!!」と思わず言いそうになったが、それをすんでのところで飲み込む。

「あれ?今日は怒鳴らないんだね」

扇ぐ手を止めて心底珍しそうに言ってくるのには腹が立つが、ここは我慢、我慢だ。
たとえ、おれをからかって遊んでいるんだとわかっても、ここは耐え忍べ、おれ。

「・・・皆のおれを驚かせたいって意志を汲んだんだろうし、せっかく用意してもらった場を壊したくないからな」

でも、この場にいたらいつ我慢が聞かなくなるかわからない。
そう思って、気分転換のためにヴォルフラムの方へ足を向けた。


去っていくユーリの背中を見つめる。

「いやぁ、渋谷も大人になったもんだねぇ。つまんないけど」

十中八九、後者の方が本音だろう。
魔王陛下をからかってこの言葉とは、大賢者はどこまでも恐ろしい。
もはや、陛下をおちょくるのはもはや猊下の趣味―いや、生きがいに違いない。
そう思った、ヨザックであった。





ようやく書き上げました、ユーリ誕生日記念小説!!
最近、オチに困ったら村田さんがしゃしゃり出てくる・・・
自分の文才のなさにがっくり。理系ですから。
今回の配付期間はかなり短めな誕生日当日と前後一日(つまり28〜30日)です。
お気に召しましたらお持ち帰りください♪


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