笑顔を君に。


母が魔王とはいえ、父親が人間だった俺に対する周囲の視線というものは、冷たいものばかりだったように思う。

そんな世界で笑うことを覚えた。

笑顔でいれば、母が悲しい顔をしないと思ったから。
笑顔でいたら、“良い子ども”だと思ってもらえたから。
だから、子どもの時の俺にとって、笑顔というのは、自分を守る術だった。

長じて、何人か友と呼べる者を得て、人並みに感情というものを持ち始めた矢先、眞魔国は、戦争をはじめた。

誰もが、笑顔を失った。
笑顔でいられる理由がなかった。



戦時下で、兵士たちは感情を捨てろと言われた。

簡単だった。

むしろ、宮中で仮面のように貼り付けた笑顔でいないで済む分、楽だとさえ感じることができた。
けれど、俺の剣に掛かって死んだ者たちは、最期に俺のどんな顔を見て逝ったのだろうか。
もしかして、冷酷な笑みを浮かべていたのではないだろうか。
そんな気がしてならない。
もちろん、今となってはそれを知ることはできないけれど。


戦争が一応の終結を迎えた時、俺は、大勢の部下を、大切な仲間達を失った。
その時、俺の笑顔も・・・死んだ。

笑顔とは、なんだったろうか。


これから先、きっと自分はもう、笑うことはないだろう。
そう思った。

笑って生きていくことは、仲間達に悪いと思ったのだ。

どことなく自暴自棄になっていた俺に、眞王廟から連絡が来た。
次代の魔王となるべき魂を運ぶ任務が課せられたのだ。

俺は、眞魔国から“地球”という異世界へ向かうことになった。
そこで、次代魔王の父となるべき人物に出会った。

「俺の息子にそんな顔で会うのは許さない」
彼の父親は俺にそんなことを言ったけれど、
笑顔なんて、必要ないと思った。

笑顔などなくとも、王に仕えるのに支障はないから。
どんな魔王になるかしらないが、どうせ今までの王と大差なく育つに決まっている。
それならば、こちらも感情など抜きにして従う方が楽だ。
笑顔を見せる必要など、ない。


けれど・・・。


小さな、小さなぬくもりを腕に抱いた時、じわり、と心の底が熱くなるのがわかった。
その時、自然と笑みが浮かぶのを自覚した。
いや・・・あまりに長い時間笑うことを忘れていたので、それは笑みというには程遠いものだったかもしれないけれど。

俺は、再び笑う、という事を思い出した。
大切なひとの前では笑顔でいたいと思った。
それは、砂に水がしみこむように自然と心に湧いた気持ちだった。

同時に大切なひとにはいつも笑顔でいてもらいたいと・・・。
そう考えるようになった。

いずれ、彼がこちらに来たときに、子どもの時の俺と同じように
笑顔をつくる、なんて事をしないですむように。
その為に、故郷に帰った俺は、少しずつ彼の過ごしやすい環境を整える事に専念した。

大切なひとが、笑顔で過ごせる場所を・・・。

彼が、笑顔になれるように、俺なりにジョークの勉強もした。

あなたが、こちらに来たら、披露してあげよう。
あなたは笑ってくれるだろうか。

あなたと再び会える日が、待ち遠しかった。




そして、今・・・・・・・・・・。


「コンラッドー!」

両手を天に掲げて大きく振るあなたに、笑顔を返す。
作ったものではない、本当の笑顔を。
あなたといると、笑顔がこぼれる。

時には難しい顔をして、小言のひとつやふたつ言わなければいけない時も、
笑顔になってしまうのだから、困ったものだ。


幼馴染に言わせると、顔の筋肉が緩みっぱなしということらしいけれど。

「はやくー!」
「待ってください、ユーリ」

笑顔が誰かを幸せにするというのは、本当だと思う。
現にあなたが来てから、この国は笑顔があふれるようになった。
失われた笑顔が戻ってきた。

あなたが、みんなに笑顔をくれた。

あなたが、笑顔をくれたように、俺はあなたに笑顔でいてほしい。

だから、これからも側にいる。

あなたが笑顔で過ごせるように。






闇色天蓋花のまあさ様から強奪してまいりました獅子の日記念です。
独白次男っていいですね。一日だけの公開なんてもったいない!!

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